にゃんごろげ様のにっき。その4 お風呂大戦争

はにゃんごろげである。
誰が何と言おうとにゃんごろげだ。

変な名前と思わないでもらいたい!

 

うむ。今日も今日とてグルーミング。
これも我の日課の一つ。ただペロペロしてるだけではないぞ!
猫たるもの、毛並みをきれいに清潔に!
そのためのグルーミングだ。


「くっさ!!!!」


ん?誰だ!我のことを臭いと言ったのは!!


「にゃんごろげ、またカリカリ食べた直後にグルーミングしてるでしょー!」


む。好敵手だ。
きさま、いい度胸だな!!
さんざん撫で撫でで誤魔化されて出来ていなかった決闘の時がやってきたようだ…
ふっふっふー!もちろん!我が勝つに決まってるけどねー!
…って、あれええ?我の体が宙に浮いてるぞー!?
なんで好敵手の顔がこんなに近いのだ??

 

よく見ると、好敵手に脇から抱っこされていた。
きっと我…体がミョーーーンと長くなっているんだろうな。
ああ…恥ずかしい…!!


「よし、にゃんごろげ。お風呂に入ろう!」


ん?
んん?
えええええええ!

 

おふろって、たしか変な台風のことか?
あったかい雨みたいなのが、ザー!っと降って、あわあわでわしゃわしゃされて、また雨がザーってして、そのあとものすごい風に吹かれる奴か?
昔、猫集会で聞いたことがある…拾われたら『おふろ』に気をつけろ、って…

やだぞ!我は雨でさえ怖いのだ!!風も嫌いなのだ…嫌なのだ!


「嫌がっても駄目だよー、あんたよくお散歩に行くし…御免だけど入ってもらうね」


むぅ…南無三…


そのあと、雨は降ってこなかった。その代わり、体があったかくてホカホカする。
好敵手は我をあわあわでわしゃわしゃしてる。
これは…ほんとに『おふろ』なのか…!?


「えっと、水圧は弱く、上から掛けずに皮膚に当てるような感じで…顔は濡らさない…」


お水はちょっと怖いけど、ちょっと気持ちいい。
猫集会の奴らはきっと大げさなのだな。
でも、少し寒くなってきたぞぉぉぉ助けてええええ

と思っていたらふわっふわのタオルが我の体に巻き付いてきた
あったかい…


「にゃんごろげは大きな音嫌いだからドライヤーは無しで…念入りに拭いてあげよう」


好敵手はびしょびしょになったタオルを何回も取り換えて我を拭いてくれた。
すとーぶもつけてくれたからあったかい…まるでおふとんの中みたいだ…ふわぁぁぁ…快適で眠くなってきた…

 


「ただいま…おおお!にゃんごろげ!毛並みがつやつやになったな!!」


ん…おはよう…あ、あいつが帰ってきた!!
そうだろうそうだろう!!我、さらに磨きがかかったでしょ!
ほら!すっかり綺麗になったでしょ!ふっふっふー!

好敵手に好き勝手されるのは気に入らないけど、もしかしたら好敵手は魔法使いかもしれない…


「また入ろうね、にゃんごろげー!」


えっと…我は…たまにでいいかなぁ…

私だけの賢者(サヴァン)

―――貴方の話を聞かせてください。


彼はいつもそういって私の話を聞いてくれる。


彼と出会うのはいつもの中だ。


深く、深く、暗い底のような微睡みの中に彼はいる。


私の中に生まれたのか、それとも私の外に生まれたものなのか、それはわからない。


確かなことは、彼は私から生まれた。それだけはなぜかはっきりとわかった。


彼との語らいは楽しく、嬉しくて、幸せで、そして、寂しい。


私には彼しかいないし、彼にも私しかいないのだろう。







―――ぼんやりと。暗闇の世界に光がうまれスポットライトがあたる。ライトの下には古めかしい木製のベンチ。

簡素な作りで板を張り合わせただけのもの。手すりは真鍮。長い年月、雨にさらされたかように錆が目立つ。


いつもそうしているかのような自然さでベンチに腰掛ける。


ほっ、と息をつき目の前の闇を見つめる。


暗く暗く、飲み込まれそうになる。

先にはなにもなくて、恐怖が、畏れが、胸をゆっくりと締め上げていく。


ぐっと。ゆびに力がこもる。


それを見透かしたかのように、彼が現れた。



―――こんばんわ。


音のなかった世界に、ポンと、溶け込むような声が響いた。


黒い闇よりも黒く、光のない世界なのにもかかわらず、彼の姿ははっきりとしている。


黒い燕尾服、黒いシルクハット、黒いステッキ。

整えられたひげ、モノクルをかけて、老人のようにも青年のようにも見える。


ただ、彼の顔だけははっきりと見えなかった。


見えているのに見えない。彼の貌はわからない。


―――お嬢さん、おひとりですか?


私は、うなづくだけ。


―――御隣よろしいですか?


私は、うなづく。


―――ありがとうございます。


彼は恭しく一礼をする。主人に向けるようで、王に向けるようで、私にそれは向けられた。


彼の横顔をそっと覗き見る。


やはり顔はわからなかったが、ただそこにいることが当たり前で、そこにいることが必然のように、

私は安心感にみたされて、必要な埋まった感覚になった。


―――おじょうさん。あなたの話を聞かせてください。


彼はそういった。

いつものように、いつものようで、


#ただ彼と出会ったのはこれがはじめてのはずなのに#


私は、ぽつり、ぽつり、と、砂場に水を落とすように言葉を零していった。


今日あったこと、楽しかったこと、うれしかったこと、つらかったこと、

さびしかったこと、こわかったこと

過去のこと、未来のこと。


私のすべてを語った。


彼は、私のことばを相槌を打ちながら、黙って聞いてくれる。

言葉をはさむこともなく、ただ黙って、うん、うんと優しくうなづいてくれる。


私は、それがうれしく、うれしくてたまらなかった。



どれだけの時間が流れたのだろうか、この世界には時計もなく、体の感覚もない。




悲しいことはないのに、さびしくもないのに、語調はそのままで、

つーっと水滴が頬を伝う。


はじめはなにかわからなかったが、触ってみると、私の涙なのだとわかった。


そして、彼が、


―――おじょうさん。つらくなくても、かなしくなくても、人は涙を流せるのです。

その涙はあなたがまだ、人である証拠です。

人はうれしいときにも涙を流せます。

貴方は人です。人間です。つらいことがあったでしょう。かなしいことがあったでしょう。


でもあなたは人間ですよ。


ふつうの、人間です。



なぜかその言葉が胸に刺さった。

私は、わたしは、わたしは、人でいいのだろうか。


人間とよばれていいのだろうか。


そのことばに救われた気がした。



ゴーン、ゴーン、ゴーンと、鐘の音が聞こえた。

どこから聞こえてくるのかはわからないが、体の芯までに響くその音は、なにか始まりを告げるものだとわかった。


そして、彼との別れを告げる音だとわかった。



―――おじょうさん。「今日は」ここまでのようですね。


わかれたくない。あなたと離れたくない。


その言葉を受け止め、彼は悲しそうに首を横に振る。


―――おじょうさん。私はいつでもここにいます。「いつも」あなたを見守っています。

だからそんな悲しい顔をしないでください。



―――また会いましょう。











ジリリリリリリリリリ。

けたたましく、目覚まし時計が朝を告げている。


うすぼんやりした頭で、ぽっかり胸に空いたなにかを探すが、それがなにかはわからない。



さぁ今日も今日が始まる。


忘れることができない私の今日がはじまる。



私は、サヴァン症候群。忘れるのことができない脳の欠陥をもって生まれ、人の姿をした、人ではない私の一日がはじまる。




「ただ彼のあなたは人間という言葉に救われて、今日も私はいきていく」

三つの誓願

昔々、だれもいない教会に一人のシスターがいました。

 

誰もいない教会で彼女は一人、粛々と暮していました。

 

そんな彼女の前に一人の悪魔が現れました。

 

悪魔は彼女にこう言います。

 

「シスターよ、お前はひどく退屈だ。退屈すぎて、退屈すぎて俺はもうどうかしてしまいそうだ」

 

シスターは答えます

 

「悪魔さん、わたしはつまらない人間です。わたしのような人間になにを求めているのでしょうか?」

「あなたの望むようなことをわたしができるようには思えません」

 

悪魔は、そんな回答に眉を潜めて答えます

 

「そうだろう。お前のような人間がわたしの退屈をつぶせるとは思わない」

「だがしかし、俺も暇なのだ」

「暇で暇で仕方ないのだ」

「だから、お前で遊ぶしかないのだ」

 

悪魔はひまつぶしで、彼女にいたずらをすると断言しました。

 

「ただ、彼女は神様と、もう三つの約束をしているので、

あなたの望みを叶えることは、できないのです」

と答えました。

 

そんな彼女の態度に面白くないのか

 

悪魔は、こういいました。

 

「その約束を一つでも違えたら、おれのものになれ」

 

彼女はそれにコクリとうなずきました。

 

悪魔は、ニヤリと笑います。

そして悪魔とシスターの奇妙な生活がはじまりました。

 

 

彼女の約束は三つ

 

貞淑の約束ー。それは女性として清らかさを貫くこと。

 

清貧の約束ー。富を求めず、質素である事。

 

従順の約束ー。院長を通して、神のお望みを聞くこと。

 

 

まず悪魔は、清貧の約束を破らせるためこの世のありとあらゆる財宝を彼女の前に差し出します。

悪魔は、色々な地に飛び、彼女を唸らせるため、数々の財宝を手にします。

ただ彼女はその財宝を前にしても、ぴくりともしません。

悪魔は、手に入れた財宝が無駄になってしまったので、彼女にあげました。

彼女はその財宝を貧しい人に分け与えたのです。

 

次に悪魔は、従順の約束を破らせるために、上長にあたる人を操り、

 

上長に扮した悪魔が彼女に無理難題を科します。

ただその無理難題も彼女は苦しくも耐え切ってしまいます。神の思し召しなら、喜んで、と。

 

もういいと悪魔はあきらめました。

 

そこから、毎日毎日、思いつく限りのことをしますが、一向にシスターは約束を破ろうとしません。

 

痺れを切らした悪魔は、どうしたものかと頭を悩ませて、最後の貞淑の約束を破らせるため、彼女に見合うような男性を探します。

 

彼女に見合うような男はなかなか見つからず、苦労しましたが、ついに彼女に見合う男をみつけたのです。

 

品行方正で清廉潔白、そして心のやさしい彼を彼女に引き合わせました。

ただ悪魔はなぜかわかりませんが、その男が妙に気にくわなかったのです。

 

何でだろう、と考えても考えても…答えは出てきません。

 

ただ、悪魔が引き合わせた二人は、いい仲のようにみえます。

悪魔はそんな二人をみて、なんだか悲しくなりました。

けれどもそれは悪魔の勝手な妄想で、実際にシスターは全くなびいていません。

そんなときに、彼がシスターに襲いかかるではありませんか。

 

必死に抵抗するシスターを尻目に、これで貞淑の約束が破られるとわかっていますが

なぜか悪魔は面白くありません。

 

悪魔は、たまらず二人の前にとびだし、その彼をなんと...ちくわに変えてしまいました。

ヘニャヘニャのちくわになった彼を横目に、シスターがなぜわたしを助けたのですか?

 

「あのまま放っておけば、あなたの望みがかなったのに」

 

そういう彼女に

悪魔はポツリと呟きました。

 

「なんだか…面白くなかった…」

 

そんな悪魔をみて、彼女はなぜだか悪魔が可愛くみえたのです。

 

そこから、悪魔の嫌がらせも息を潜めて、

 

ただ祈りを捧げる彼女をつまらなそうに見つめる毎日がはじまりました。

 

ふと、悪魔がシスターに問いかけます。

 

「なぜお前は祈るんだ?」

 

彼女は答えました、

 

「わたしの祈りは、どこにも届かないって知ってます。ただ誰にも届かなくても、かみさまに届かなくても、この祈りが誰かの為になればいいなって…そう思うんです」

 

にっこりと道端にそっと添えられ、ささやかに咲くような彼女の笑顔が悪魔の心を撃ち抜いたのです。

 

悪魔は、気づいていけなかったのです。人に恋するなんて。

それも憎き、神に仕えるシスターになんて…

 

「ここにいては、だめだ、おれが悪魔でなくなってしまう」

 

そう思って彼はその教会を後にしました。

 

悪魔が去ってシスターはまた一人になりました。

 

悪魔がいた生活は短かかったのですが彼女にとっても、濃い期間だったでしょう。

 

そんなときに…一人の青年がやってきました。

 

なぜだかとても懐かしく、不思議な雰囲気を感じ、シスターはあることに気づきました。

 

そして照れくさそうに、青年が言います。

 

「悪魔…やめてきました。」

 

彼女は初めて大笑いをして、最後の約束を破りました。

 

おしまい。

Who is the worst guy?ーlost talesー

時系列はWho is....の後ですが、

基本的にディーンの昔話になっております。コチラ単体でも楽しめるようには書いておりますがWho is....の要素もあります

前回と違い恋愛要素もあります。直接的では無いので、年齢制限は設けませんが性描写を示唆するシーンもございますので一応お気をつけ下さい。


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ディーンスナイパーであるが、とあるマフィアに雇われている。


アンナ売春婦。


ファウストマフィアの大幹部。


情報屋謎に包まれている全てを知っている人物



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ディーン 

ファウスト 

アンナ 

情報屋 

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ディーンM 仕方ないとはいえ、仲間を....相棒を失った。「失う」....そんな事は仕事上、嫌でも慣れた筈だが、何故か思い出す。とうに忘れ去った、そんな程度の記憶だったはずだ。だが....俺が若い時の記憶がフラッシュバックの様に脳裏に過ぎった。』




ディーン「クソっ....バーストか....



情報屋「なんだ?調子が悪いなディーン」



ディーン「気にするな、酒の飲み過ぎさ」



情報屋「....エリックの奴らは良くやってるよ、荒削りだが、どこぞのCIAより腕が立つ」



ディーン「....そうか」



情報屋「....安心かい?」



ディーン「ああ。....ふぅ」



情報屋「さては、感傷に浸ってんのか?」



ディーン「....ハハッ....昔話は得意じゃねぇんだが....でけえ独り言だと思って聞き流してくれ」



情報屋「ああ。わかったよ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ディーンM 当時、俺はマフィアに雇われたただの用心棒だった。いわゆる兵隊ってやつだ。ああ、懐かしい。身なりのいいホワイトカラーに指示を受けて殺しの仕事をしてた。生きるために殺す。実に殺伐とした世界だ。


ある時、奴に1つの仕事を持ち込まれた。』




ファウスト「パイソン、いるか」



ディーン「んだよ、仕事か?」



ファウスト「当たり前だ。顔貸せ」



ディーン「チッ....早く言いやがれ」



ドン



ファウスト(脅すように)口を慎めディーン?情でここに置いてる訳じゃないんだ。組織ってもんを理解しろ」



ディーン「(少し苦しそうに)ッハ!ホワイトカラーのファウストさんよぉ、俺が居なきゃ片付かなかったヤマを数えてみな」



ファウスト「ほざけ。俺達ルチアーノファミリーが居なけりゃお前はとうに死んでる。それに...スラムの始末はしくじったみてぇじゃねぇか。俺は『殲滅』を命令したはずだ。ネズミ1匹残すなと、な」



ディーン「知らないね。」



ファウスト「チッ....まあいい。お前にこなしてもらう仕事は、これだ」



ディーン「は?....売春....宿?」



ファウスト「今回は殺しじゃない。ここに居る売春婦のうち、何人かイタリア国籍の女がいる」



ディーン「人身売買....か?」



ファウスト「そうだ。俺達の祖国に喧嘩を売るやつが居てな。」



ディーン「そうか。で?俺の仕事は?」



ファウスト「イタリア国籍の女を保護しろ」



ディーン「保護!?俺に出来るのは殺しだけだ!」



ファウスト「お前はもっと世界を見るべきだ。ヒットマンなら尚更さ。これは命令だ。わかってるな?」



ディーン「....チッ。わかったよ」






ーーーーーーーーーー


ディーンM『ベルモンド・ファウスト。イタリア系マフィアの首領、こいつが俺に殺し以外の仕事を命令を下したのは初めてだった。

当時の俺はまだまだ青くて、雇い主に唾を吐き捨てたりしていた。この仕事も、納得いかなかった。....が、生きる為、仕方が無いと飲み込んで命令を受けたのさ。おぼつかない足でBARに向かった。』




ディーン「保護....なぁ。」




ディーンM そのBARは件(くだん)の売春宿の近くにあった。この時の俺アルコールを喉に流し込みたくて仕方がなかったんだ。いわゆるヤケだ。そうしている間にも客引きの女が声を掛けてきたりして「No」の一点張りだったが、一際目を惹く女が目の前に現れた』



アンナ「あら、お兄さん一人?」



ディーン「...ナンパや客引きはお断りだ」



アンナ「さっきからずっと見てたから知ってるわ。私は一緒に飲みたいだけ。それもダメかしら?」



ディーン「....好きにしろ」



アンナ「ありがと。マスター、マティーニを」



ディーンM そうして隣に座ってきた女は、金髪碧眼の美女だった。さっきまでの客引きの女と違って下品さも感じられなかった。「美女には気をつけろ」と今の俺ならそう思っただろうが、当時の俺にはそんな頭はなかった』



アンナ「なんてお呼びしたらいいのかしら?」



ディーン「....ディーンだ」



アンナ「ディーン....私はアンナよ」



ディーン「呼ぶ機会は無いだろうがな」



アンナ「それでもいいわ。お兄さん....いえ、ディーンの記憶の隅っこにでも


居れるなら」



ディーン「....酔ってんのか?」



アンナ「当たり前じゃない、飲んでるんだもの」



ディーン「新手の客引きか?あ?」



アンナ「客引きもとうに済ませて仕事も終わったの。だからオフよ。失礼ね」



ディーン「...そうかよ」



アンナ「貴方は?見かけない顔だけど」



ディーン「通りかかってこの酒場を見つけた。それじゃダメか?」



アンナ「....ここに新顔が来るのはワケあり位しか居ないわ....。でも....そういうことにしといてあげる。」



ディーン「ハッ。ありがたいね。」



アンナ「でもね....貴方、何か思い詰めてない?」



ディーン「ほっとけ。仕事が上手くいかねぇだけだ。」



アンナ「理由がなんだろうと、ちょっと見過ごせないわ....ディーン、貴方のそのお酒の飲み方....見るとこっちまで辛くなる」



ディーン「だからほっとけって。お前には関係ない。」



アンナ「...確かに関係ないわ。私はお酒を飲んでるだけ。貴方は大きな独り言を言う。それならいいじゃないかしら?」



ディーン「...腐りに腐った糞袋のような世界に嫌気が差しただけさ」



アンナ「....



ディーン「殺さないと殺される。そんな世界で生きてんだ、俺は」



アンナ「....



ディーン「殺せば殺すほど憎しみの連鎖にまみれてよ...だが生きて行くためには容赦なく殺したさ....なのに....





ーーーーーーーーーーーーーーー





情報屋「ハッ!お前が知らねぇ女に身の上話をするとはなぁ!」



ディーン「るっせえ!!俺だって若い時はあるんだよ!!」



情報屋「いいねぇ!青いねぇ!」



ディーン「だから茶化すなって」



情報屋「すまんすまん、あまりにもお前さんらしくなくて、ついな」



ディーン「確かに、この時の俺はどっかおかしかったのかねぇ」



情報屋「銃声で頭がやられたか?」



ディーン「間違いねぇ」



情報屋「もう一杯どうだ、たまにはもっと付き合えよディーン?」



ディーン「あぁ、もらおう」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ディーンM『アンナと名乗った女は、話に割り込むでもなく、静かに頷き、静かに聞いていた。そして、俺のヤケにも近い愚痴を聴き終わったあと、口を開く。』




アンナ「そう、貴方はそうやって殺し屋になったのね...生きるために殺す...私には考えられないわ」



ディーン「だろうな。」



アンナ「貴方....辛いんでしょう。」



ディーン「誰も言ってねぇよそんなこたァ」



アンナ「小さな子を逃した...殺し屋にしては優しすぎるわよ。」



ディーン「...。」



アンナ「私はその界隈はよく知らないわ。だけど、本来殺し屋なんてもっと冷酷だと思うのよ。」



ディーン「冷酷なんてもんじゃねぇ。人の感情を持ってねぇ生き物だ」



アンナ「でしょうね。」



ディーン「それに俺は優しいんじゃねぇ。俺が生半可なだけだ。」



アンナ「その生半可な気持ちが、今その子を生かしてるのよ。少なくとも、


その子の命は助かったわ」



ディーン「...。」



アンナ「命さえあれば、何だって出来るのよ?」



ディーン「だが、俺はガキ以外は全員殺した」



アンナ「そうね。」



ディーン「そいつがいつか俺を殺しに来るかもわからねぇ。ホントあまちゃんだよ俺は。」



アンナ「その時が来たらどうするの?」



ディーン「簡単には殺されてやらねぇよ。」



アンナ「やっぱり優しいのね」



ディーン「うるせぇな。」



アンナ「普通なら「殺す」って言うんじゃないの?」



ディーン「....チッ。調子が狂う。俺はもう出る。じゃあな。」



アンナ「待って、ディーン」



ディーン「...今度はなんだ」



アンナ「そんなヤケクソな状態で何処に行くの?」



ディーン「飲む場所を変えるだけだ。お前には関係ない」



アンナ「じゃあ...私の家はどうかしら?」



ディーン「断る」



アンナ「お酒もある程度揃ってるわ。それに...



ディーン「なんだ」



アンナ「....(ため息)負けたわ。私は貴方を魅力的に感じてる。」



ディーン「ハッ。冗談言うな」



アンナ「回りくどい言い方は好きじゃないと思うからハッキリ言うわ。一日だけでもいい、私に夢を見せてくれないかしら?」



ディーン「...



アンナ「お願いよこんな恥ずかしいこと言わせないで」



ディーン「...まずは酒からだ。その後は後で決める。いいな?」



アンナ「ふふっ、ありがとう。喜んで」







(ロックグラスに氷。目の前には高価そうな酒が並んでいる)




アンナ「何飲む?これも飲んでいいのよ」



ディーン「....ナポレオン...しかもXOじゃねえか....!!



アンナ「お酒を集めるのが好きでね。ヤケになった時や、感傷に浸りたい時にお世話になっているわ」



ディーン「ヤケ酒で飲むもんじゃねぇだろこれ...



アンナ「ふふっ。さて、何飲む?言ってくれたら出してくるわ」



ディーン「...フォアローゼス。ワイルドターキーでも構わねぇ。」



アンナ「あら、そんなのでいいの?もっといい物出せるわよ?」



ディーン「俺の舌にはこれが一番だ」



アンナ「勿体ないわねぇ」



ディーン「どんな上品で高価な酒を飲もうが、結局はこれが落ち着くんだよ」



アンナ「...オールド・リップ・ヴァンウィンクル。」



ディーン「気に入らねぇ。箱入り娘だあんなもん。」



アンナ「ダブル・イーグル・ベリーレアもあるわよ」



ディーン「ありゃダメだ、高飛車で気がキツイ。俺には合わねえ。」




アンナ「...私は好きよ、そのセンス。じゃあ待ってて。」




(瓶を開け、注ぐ音、氷の音が響く)



アンナ「貴方は、お酒を女として扱うのね。」



ディーン「あぁ。女と一緒さ。それぐらい好みやレベルで味も違う。どんな味でも付き合いが長くなると愛しくなるもんだ」



アンナ「じゃあ、私は何に当てはまるのかしら」



ディーン「しょうもねえ質問するんじゃねぇ。だが、強いて言うならI.W.ハーパーか」




アンナ「ふふっ、ちなみに聞くけど、なんでかしら?」




ディーン「ボトルがヤケに綺麗で品がある。の割に味に芯の強さがあるんだ。見た目や振る舞いにだけじゃねえ。さらに味わいたくなる。たまにはそんな刺激があってもいい」




アンナ「それは、口説いてるってことでOKかしら?」



ディーン「フッ。どうだろうな。」



アンナ「わたしはフォアローゼス。あなたはハーパーを飲みましょう?」



ディーン「悪かねぇな」




(グラスにそそぐ音)



(アンナ、フォアローゼスを1口飲む)



アンナ「....たしかに、フォアローゼスなんて安酒過ぎて長年忘れてたけどこんな味もいいかもしれないわね。....おいしい」



ディーン「....そうか。ハーパーは深みがあって嫌いじゃねぇ。」



アンナ「そうねこれが、あなたが感じた私の味よ」



ディーン「悪かねぇな....寧ろ...癖になりそうだ(軽くキスをする)





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





情報屋「ほぅ?お前にしちゃ珍しいじゃねえか。初対面の女相手に口説き文句なんざ」



ディーン「俺だって女に甘い言葉はかけるさ」



情報屋「そうじゃねぇ。わざわざお前の好きな酒に例えるなんざ...ハーパーねぇ。」



ディーン「あ?」



情報屋「そういえばお前、俺と飲む酒は必ずハーパーだなぁ?」



ディーン「...るっせえ」



情報屋「『癖になりそうだ』ってか?」



ディーン「....それ以上言ってみろ。お前のディックが蜂の巣になるぜ」



情報屋「いやぁすまんすまん、お前から浮いた話が聞けると思わなくてな」



ディーン「だから、若かったんだよ」



情報屋「可愛い時期があったもんだ。で?女とのベッド事情を早く聞かせてくれよ?」



ディーン「ったく好き者が....






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







アンナ「はぁ...はぁ...



(ジッポの音)



ディーン「(煙草をふかし)...変わった女だよお前は。」



アンナ「...どうだったかしら、私の味は?I.Wハーパーと遜色なかった?」



ディーン「...最高さ。もっと味わいたい程にな」



アンナ「ふふふ。嬉しいわ」



ディーン「...



アンナ「やっぱり、あなたは優しいわ。殺し屋なんて務まらないほどにね。」



ディーン「あ?」



アンナ「荒々しい抱き方をするかと思ったら...恋人のように大切に扱ってくれるんだもの。勘違いしてしまいそうだわ...愛されてるって」



ディーン「そいつはいけねぇ。なんたって今日出会ったばかりじゃねぇか」



アンナ「あら、恋愛はきっかけさえあれば一瞬でも成り立つものなのよ」



ディーン「知らねぇな。無縁だ」



アンナ「ふふふ。これは私の電話番号。会いたいと思った時でいい、そうじゃなくても...、思い出した時にでも声だけでも聞かせて?」



ディーン「考えといてやるよ」





ディーンM『女を抱くなんざ、俺の中では作業でしかない事だった。この時は自分でもおかしいと思ったよ。連絡先を受け取った時点で入れ込んでたのかもな。それから数日、仕事をブン投げてアンナと恋人ごっこをしていくうちに、ガキくせえ恋をしてしまったのさ。そして...久々にモーテルに戻った。』








(モーテルの部屋のドアの音)



ファウスト「進捗がないようだが?」



ディーン「なんでお前がここにいる?」



ファウスト「お前がチンタラしてるのが悪いんじゃないのか?マフィアが犬の居所を特定するのは当たり前だ」



ディーン「そうじゃねぇ。何しに来た」



ファウスト「本来ならもう保護してる頃合だ。だがお前は手ぶら。お前こそ何してた」



ディーン「うるせぇな。呑んでただけだ」



ファウスト「仕事中に女に現を抜かすのはやめておけ。それにあの女は危険だ」



ディーン「は?見てたのかよ?趣味わりぃ」



ファウスト「忠告してやっているんだ馬鹿野郎。」



ディーン「誰抱こうが俺の勝手だろうよ。」



(銃の安全装置を外す音)



ファウスト「黙れ。あの女はFBIだ。」



ディーン「....っ!?」



ファウスト「わかるな?FBI…即ち俺たちの敵だ。」



ディーン「なんだと....



ファウスト「信じるか信じないかは自由だ。ただ、あの女を信じてヘマして俺に殺されるか、俺を信じて仕事をこなし金を稼ぐか。決めるのはお前だ」



ディーン「ふざけんなそんな訳



ファウスト「いいんだぜ俺は?お前がどうしようが。ただ簡単に女なんか信用するタマじゃない、そう信じてるさ」



ディーン「。」



ファウスト「まあいい。俺は忙しいんでな。お前と違って女を抱く時間なんてない」



ディーン「嫌味をどうも有難う。」



ファウスト「黙れ。じゃあな」




(ドアの音。ファウスト退出)




ディーン「じゃあ分かっててこっちに近付いた...って事か...チッ」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





アンナ「はい。アンナよ。」




ファウスト「やあ。アンナ・デイビス。」



アンナ「...



ファウスト「言い直そう。麻薬捜査官のアンナ・デイビスだな?」



アンナ「...私はただの女よ。」



ファウスト「嘘をつけ。お前が嗅ぎ回っているのはこちらは把握済みだ。」



アンナ「...。なんの用かしら」



ファウスト「そうだな、手早く行こうか。デイビス、いくら欲しい?」



アンナ「なんのつもりかしら?」



ファウスト「賢いデイビス捜査官ならみなまで言う必要は無い、分かるだろう?」



アンナ「...手を退けという事かしら」



ファウスト「ご名答。」



アンナ「さすがイタリアンマフィアね。インテリジェンスに解決しようってわけね」



ファウスト「よく分かっているじゃないか。聡明な女だ。」



アンナ「馬鹿ね。嫌味よ。」



ファウスト...。俺の気分が変わらない内に欲しい金額を言うんだ。金はいくらでもやろう。但し、応じないのであれば...



アンナ「殺すのかしら?生憎、私に脅しは通用しないわ。お金も結構。」



ファウスト「そんなに死にたいのか」



アンナ「いいえ?あなた達が狙っているものは世界を滅ぼすわ。そうなる前に私達DEAが取り締まる。それだけよ。」



ファウスト「おー怖い怖い。」



アンナ「正義を振りかざすつもりは無いわ。だけど...“クロコダイルはもはや薬物ではない。ただの猛毒よ」



ファウスト「ふっ。お前たちにとってはな。だが、俺たちにとっては「金の成る木」だ。」



アンナ「どうとでも言うといいわ。」



ファウスト「御託はもういい。応じないと言うのであれば消す。それだけだ。墓石に挨拶は済ませたか?」



アンナ「...私は屈しない」



ファウスト「諦めが悪いなぁ?まあいい。死を待つ事だな」



電話が切れる






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






情報屋「案の定女にはめられるたァ、ほんとにこの時代、ポンコツだったんだな?お前」



ディーン「この家業は現地で学んでくもんだ。スーパーマンじゃあるめぇし」



情報屋「しかし、何処ぞの馬の骨のためにあのFBIがわざわざ近づくかねえ??それに仕事は売春婦の保護だろう?なにか引っかかる。」



ディーン「まあな。」



情報屋「きな臭くなってきたな。俺は好きだぜ?こういう話。ハリウッドでもあるだろう?」



ディーン「はっ!ハリウッドってのはもっと嘘くせえよ。」



情報屋「違いねぇ!」









ディーンM『その1日後に俺はアンナを呼び出した。FBIだろうが何だろうが、ただ会いたかった。そんなの嘘だと否定して欲しくてな。』





アンナ「会いたかったわ!ディーン!」



ディーン「あぁ」



アンナ「ふふっ。こんなに一緒に過ごせるなんて...自惚れてもいいのかしら?」



ディーン「構わねぇさ。俺も似たようなもんだ」



アンナ「嬉しいわ」



ディーン「俺もさ。女なんてめんどくさいと思ってたが、お前は違う。ほんとに最高さ」



アンナ「ありがとう、ディーン」



ディーン「このまま...バックレちまいてえ」



アンナ「? 仕事からってこと?」



ディーン「...ああ」



アンナ「どうしたの?顔色が悪いわ...



ディーン「聞きたいことがある。違うならハッキリ否定してくれ。」



アンナ「え、ええ...。」



ディーン「アンナ...俺にわざと近付いて利用しようとしたのか?」



アンナ「!?」



ディーン「答えてくれ」



アンナ「...。」


ディーン「お前はFBIで、俺を捕まえるつもりで近付いたのか」



アンナ「...ディーン...



ディーン「頼むから...否定してくれ」



アンナ「...ディーン、ごめんなさい...



ディーン「頼むから...



アンナ「あなたを貶めたいわけじゃなかったの...



ディーン「否定...してくれよ...



アンナ「...私は貴方を騙したわ...ごめんなさい」



ディーン「最初から、騙すつもりだったんだな」



アンナ「...



ディーン「...いいさ、あってまだ間もない。俺が馬鹿だったさ。」



アンナ「...ごめんなさい」



ディーン「...あなたを魅力に感じてるなんてよく言ったもんだ。早く消えろ。俺の気が変わらねぇうちに。でないと殺しちまう」



アンナ「...貴方に殺されるなら本望だわ。だから...(深呼吸)本当の事を話させて」



ディーン「...



アンナ「...まず、私は貴方を捕まえるつもりはないわ」



ディーン「はっ!よく言うぜ」



アンナ「本当よ。私はFBI捜査官なんかじゃない。DEA。麻薬捜査官。」



ディーン「は?」



アンナ「あなたの雇い主はそう伝えたようだけど。私は貴方ではなく、貴方のバックに居る雇い主を逮捕したい。管轄外なのよ。少なくとも今はね。」



ディーン「だが、今回のヤマは女共の保護で...ヤクに関係がない」



アンナ「大ありよ。貴方が行くべき売春宿。マフィアが唯の大義名分で娼婦を逃がすわけがないじゃない。」



ディーン「は...?



アンナ「...クロコダイル」



ディーン「それは...スラムの...



アンナ「ええ。貴方が潰した、製造元のスラムの街。捜査した所、貯蔵していたクロコダイルが跡形もなくなっていたの。殺された死体と、貯蔵分を運搬した足跡や引き摺った形跡と。時期がかなり違うのよ。」



ディーン「...俺は確かに殺しただけだ」



アンナ「でしょうね。容易に推測できるわ。きっとルチアーノ本家でしょうね。」



ディーン「...



アンナ「ルチアーノは今大量のクロコダイルを所持している。そして...今回の件で娼婦の保護の名目で女や元締めを追い出し、そこに自身のクロコダイルの製造工場と保管庫を作り出そうとしているのよ。」



ディーン「何だって...!?



アンナ「その元締めが元々、クロコダイルの製造を牛耳って私腹を肥やしていたようね。資料にはそう記述されている。邪魔だから消して全て頂こうって事かしら」



ディーン「汚ぇことしやがる...



アンナ「さしずめ貴方は端役だったんでしょうね。聞かされなくて当然よ...あくまでも推測だけど...あのファミリーはクロコダイルの市場を独占しようとしているのね」



ディーン「...マフィアがヤクを取り仕切ってるのは当たり前じゃないか?」



アンナ「ディーン...クロコダイルはマリファナやコカインとわけが違うわ...



ディーン「どう違うんだ?」



アンナ「服用すると...マリファナと同じように一時の快感を得るわ。ただ、本当にタチが悪くて、ただの1回の服用で依存症になるの」



ディーン「1回!?」



アンナ「それに。服用した者は寿命は最長で2年よ」



ディーン「...それは...もう猛毒じゃねぇか」



アンナ「ええ。身体中が壊死するんだから。...それに、作成コストは段違いに低い。容易に作れるの。だからアイツらの目論見が実現されると...



ディーン「どこぞで見たアウトブレイクが起こる...



アンナ「そうよ。だから、絶対に阻止しなければいけないの...



ディーン「俺は被害には興味ねぇ。だが...ちょうどファウストの土手っ腹に風穴を開けたい所だ。」



アンナ「...ディーン...



ディーン「アンナ。俺は仕事に行く。女共を逃がした後。ルチアーノのアジトにその足で向かう」



アンナ「私も行くわ」



ディーン「駄目だ。」



アンナ「だって...1人じゃ...それとも、私が足でまといなの?」



ディーン「そうじゃねえ」



アンナ「なによ...私の任務なの!貴方1人でそんなことをする必要がどこにあるの」



ディーン「...惚れた弱みだ。俺は殺し屋で守ることは出来ねぇ。だからせめて安全なところにいてくれ」



アンナ「...ディーン...



ディーン「相手は三大マフィアの一角だぞ。お前を舐めてるわけじゃねぇ。ただ単に危険過ぎる。」



アンナ「...分かったわよ...根負けしたわ」



ディーン「じゃあ、行ってくるぜ、Darling?」



アンナ「行ってらっしゃい、honey









情報屋「なるほど、DEAだったのか。厄介な女だ。俺にとっちゃ天敵だな」



ディーン「間違いねぇ。」



情報屋「で?女の訴えをすんなり信じちまったのか?」



ディーン「あぁ。後に話すが、結局それは本当だったさ」



情報屋「一晩で落ちた恋さえ、こんなにも人間を腑抜けにするんだ。恋愛ってのはつくづくわかんねぇなぁ」



ディーン「仕事にゃ邪魔だがな」



情報屋「で、速攻売春宿に向かったのか?」



ディーン「あぁ。」








ディーンM『おれはアンナと別れた後、しばらくしてから命令通り売春の元締めや必要以上にいるボディーガードを殺して女たちを解放した。簡単なもんさ。んでもって元締のいた部屋に隠し扉があり、開くと地下に続く通路が見えた』




ディーン「ここか。保管庫は」



ディーンM『地下に降りた先は、だだっ広い空間があった。得体の知れない機械が沢山あり、得体の知れない匂いが充満していて吐き気がした』




ディーン「...後でぶち壊してやるから、せいぜい動いてな」




ディーンM『そう吐き捨ててルチアーノのアジトに向かい、仕事の報告と傘下から抜けたい事を伝えに...いや、ファウストを殺す為に、奴がいる部屋のドアを開けた』




アンナ「あはははは!!」



ディーン「...!!!...なんだよ...これ...



アンナ「あぁーディーンー!ディーンだぁー、あはは」



ファウスト「お気に召したか?愛する人の無惨な姿は」



ディーン「...なんだよ...何してんだよ!!!」



ファウスト「見てみろディーン。この女は娼婦よりも下品でアバズレだ」





ディーンM『目の前に広がった光景は、服がズタズタになり、痣だらけになったアンナ。その周りには男が何人もいた。あろう事か、下着は付けていない。何が起きたのかは、アンナを見ればすぐ分かった。』






アンナ「あははー!たのしい!ディーンもまざる?」



ディーン「アンナに何したんだ!!お前!!」



ファウスト「嗅ぎ回っていた雌犬を捕まえただけだが?お前が離れたたった2時間でこうなるんだ、やはりクロコダイルは素晴らしい。」



ディーン「ふざけるな!!!」



ファウスト「どうだ?デイビス。自分が取り締まるべきクロコダイルに染められ、男達に嬲られる気分は!」



アンナ「うふふー...さいこー」



ファウスト「だそうだ。」



ディーン「お前だけは絶対に許さねぇ...!!



ファウスト「それはこちらの台詞だ。お前もじきに同じ目に遭ってもらおう。クロコダイルの試作に立ち会えるなんて幸せじゃないか、ディーン」



ディーン「...どうせ殺すなら教えろ。あの宿で何をするつもりだ」



ファウスト...クロコダイルは原材料がとても安価でねぇ。今まで前例のなかった大量生産を実行し、稼ぐ。それだけだ。コカインやマリファナじゃ満足出来ねぇ奴らはごまんといる。そいつらに夢を見せてやるのさ。」



ディーン「夢?地獄の間違いだろ!」



ファウスト「おっと。勘違いするなよ。ヤクに染った人間はみんなクソだ。それで金を稼ぐもちろん俺達も。マフィアはそれが当たり前だろう?今更ヒーローを気取るのか?」



ディーン「そんな話は誰もしてねぇ。お前らがやろうとしてるのはただのテロだ」



ファウスト「テロで結構。...おい、殺れ」



複数の銃声



ファウスト......!?」



ディーン「ボディーガードで俺を殺せると思ったのか?」



銃声



ディーン「殺しの場数は俺の方が上だ」



ファウスト...チッ!使えん奴らめ...!!



撃鉄の音



ディーン「遅せぇよ」



銃声



ファウスト「かはっ!!」



ディーン「頭か心臓撃ち抜きゃ早いんだがな、生憎俺は機嫌が悪い。」



銃声



ファウスト「ぐっ!!グハァッ!...分かった...金なら...いくらでもやる......殺さないでくれ...



ディーン「命乞いか。マフィアのボスが...情けねぇ」



銃声



ファウスト「ぁぁあああ!!?」



ディーン「そろそろ耳障りだ。死んどけ」



銃声




ディーン「...







アンナ「ディーン...



ディーン「ん!?アンナ!!!大丈夫か!!?」



アンナ「ディーン...



ディーン「悪かった...こんな事なら...傍にいれば良かった...!!!



アンナ「ディーン...お願い...私を殺して...!



ディーン「!?出来るわけがねぇだろ!何言ってんだ!!」



アンナ「アイツらに...クロコダイルを...飲まされたの...


ディーン「そんなの!!俺が今から病院に連れて行けば...!!



アンナ「無理よ...通常の数倍...摂取した...もの...!



ディーン ...!?嘘だろ...!?



アンナ「きっと...私はもう皮膚が溶けて...原型が亡くなっちゃう...だから」



ディーン「...出来ねぇよ......!!



アンナ「お願いよ...貴方に殺されるなら...!!!...幸せだから...



ディーン「...



アンナ「...貴方に...終わらせて欲しいの...




ディーンM『アンナは俺が握っていた銃を掴み、その銃口を自身の額に当てた。』




アンナ「...愛してるわ...



ディーン「...畜生...!!!




銃声



ディーン「アンナ...!!畜生...!!




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



情報屋「...砂吐きそうなぐらい甘々なロマンスが、いつの間にか血反吐吐きそうなぐらいの胸糞だ。」



ディーン「...もう昔の事さ」



情報屋「売春宿の爆破事件はウチの界隈じゃ有名だが...お前だったんだな」



ディーン「あぁ」



情報屋「どこまでも卑劣だあのファミリーは」



ディーン「それに、まだクロコダイルは無くなってねぇ」



情報屋「現実問題、クロコダイルをこの世から抹消するのは難しいぜ?」



ディーン「だが、過去の俺が許さねぇ。この世から消し去るまでは俺は死なねぇさ。」



情報屋「愛する女を殺した薬だもんな?いやあ、カッコイイねぇ!」



ディーン「思ってもねえ事言うな。それに、殺したのは...俺だ」



情報屋「...ふっ。」



ディーン「文句あんのか?」



情報屋「感情に揺れてるお前を見るとつくづく思うよ。」



ディーン「何がだ」



情報屋「エリックは、お前によく似てる」



ディーン「エリックがかぁ?」



情報屋「アイツは...まるで昔話のお前だ。ちと感情的過ぎるがな」



ディーン「ハッ。ろくな男になんねえぞ」




情報屋「いんや。いつか世界一ワルで世界一いい男になるさ。今のお前みたいにな。」



ディーン「やめろ気色悪い」



情報屋「過去もいいが、この先を楽しみに生きようぜ?ディーン。あー。ボトルが空じゃないか。次は何を飲む?」



ディーン「ハーパー...いや、ワイルドターキーで」



情報屋「別にいいが、I.W.ハーパーじゃなくていいのか?」



ディーン「昔を思い出しながらハーパーを味わって飲むのもいいが...俺にはやっぱりこっちが合うんだろうな。無性に飲みてぇ」



情報屋「...粋だねえ!」

2日間のコンサート

夕方を過ぎ、この大きな駅の前にストリートミュージシャンが集まって騒がしくなってきた。

雑踏の中、ロック、今流行りのJPOP、洋楽と様々な音が聞こえてくるが、僕は足を止める気にはならなかった。

夢を追いかけて、少しでも自分たちの音楽を聞いてほしいと一生懸命な姿は美しいものである。

だけど仕事疲れで少し荒んだ僕の耳には届かなかった。

彼らの音楽が下手なわけでも、悪いわけでもなかった。
ただ、今の僕には少し刺激が強すぎる。

歩道橋をトボトボと歩いていく。
「大変じゃない仕事はない」とはよく言ったものだ。

彼等のように夢追い人になれたらなと、疲労に侵食された頭で想像してみる。

....ダメだ。想像がつかない。

僕には夢を追うことも許されないのかと
余計に荒んだ考えに戻ってしまった。

そんな時に
何処からか優しいギターの音と、透き通った口笛が聞こえた。

歩道橋の下。そこに彼は居た。
音を追って行き着いた、その彼の見た目はボロボロの服、髭モジャの顔。
お世辞にも清潔感のない格好の男だった。

「驚いたかい?」

彼は問いかけてきた。

「はい....」と正直に答えてしまった。
ハッとして謝ろうとしたら

「慣れてるから大丈夫だよ。それより1曲聞いてくれないかい?」

と言ってきたもんだから僕はまた
「はい」と答えてしまった。

聞いたことの無い、綺麗な音色
聞いたことの無い、綺麗な歌声

オリジナルの曲だろうか。けど音色、歌声、歌詞が全てが僕の中にスっと入り込んだ。心地良い。いや、心地良いどころか、僕の中でその全てが響いていつの間にか顔に涙が伝う。

「....ありがとう」



演奏し終えた彼は優しく礼を言ってきた

「いえ、こっちこそ....素晴らしい音楽を....ありがとうございます。聞かせていただいて」

そう言いながら僕は財布を開けて、千円札を出す。

すると今度は彼が静かに涙を流していた。


「ごめんね....僕の歌なんて....聞いてくれる人なんていなかったから....だからその千円札は仕舞って、聞いてくれた、その真実だけで僕は嬉しいから」

驚いた。

彼の歌声に誰も足を止めなかったと言うのか。


音楽の感性は人それぞれだと言うけれど。

「....僕は見た目通りホームレスだ。身なりだってボロボロだ。けど....音楽だけはやめたくなくてね、誰かの耳にいつか届けばいいなって思ってたのさ」

彼はそう呟く。
そうか。見た目だけで今まで素通りされて大好きな音楽も誰も聞いてくれなかったのか。

「....綺麗事は言いません。ただ、このお金は貴方の歌声を聞いて、感動したからお渡ししてるんです。ここではたくさんの人がストリートライブをしています。その中で1番僕は貴方の音楽が好きだと感じました。また、明日に聞きに来ます。その千円札は受け取ってください。」


そう言って僕はその場から立ち去った。
雑踏で見えなくなりそうな距離で少し振り返ると、まだ頭を下げていた。



久しぶりに琴線に触れる、惹き込まれる音楽を聴いた。

人の感性はそれぞれと言ったけれど、
聞き手の心を動かす歌声を持つ人はひと握りだ。

何故他の人は彼の音楽を聞こうとしないのだろう。身なりが悪いから、アンプがなくて、マイクもなくて楽器が立派じゃないからか?

そう考えるとまた僕は涙が出てきてしまった。

次の日、彼は同じ場所に居た。

「貴方の為に、僕は歌うよ」

僕の為に、そう言った彼は心做しか昨日より少し輝いて見えた。

昨日より透き通って輝きが増した、優しい歌声
昨日よりもさらに心が震えてくるような、訴えかける歌詞。

僕は黙って涙をこらえて聞いていた。

「....ありがとう、ございます!!!」

彼の涙ぐんだ嬉しそうな声で僕はやっと気付いた。
パチパチパチと、疎ら(まばら)ではあるが複数の拍手が聞こえてきたのだ。

振り向くと、昨日の僕のように涙を流して聞いている人、小さな子供、その親が拍手していたのだ。

あろう事か、その観衆達はしっかりと彼のギターケースにお金を入れていった。


小さな子供は首にかけたがま口の財布を開けて、10円と100円を握りしめて彼の元に行く。

「おじちゃんの歌、きれいだね!!!」

そう言って彼に110円を手渡しした。

ありがとう、ありがとうと彼は繰り返し、
その110円を受け取った。

観衆も立ち去った頃、
「貴方のおかげだ。本当にありがとう」

と彼が僕にまた頭を下げた。

「僕は何もしていません。強いて言うなら、昨日その歌声を独り占めしただけですよ」

これは本心だった。
そして昨日と同じように、1000円を取り出そうとすると

「お金は....仕舞って下さい。貴方には大きな恩がある。きっかけをくれた、それだけで僕は充分だ」

と優しい笑顔で彼が言った。

僕もまた、笑顔で言った。

「いい音楽を....ありがとう」




僕の勤め先が変わり、帰り道が
あの場所とは正反対の方向になってしまって以来、彼には会えていない。
僕の彼の記憶はたった2日間のものだったが
今ふと思い出した。


彼は今も、同じ場所で歌っているだろうか。

澄んだ空を見て思った。
彼の歌は青空のようだった、と。

また、定時に上がれたらあの歩道橋に向かうとしよう。

どうしてこうなった2

幽子→悠太の部屋に住む地縛霊。美人らしい。

悠太→引っ越したばかりの大学生。2、3本ネジがぶっ飛んでる

雅士→悠太の幼馴染。唯一の常識人の為、この物語の苦労人

美樹→悠太の妹。

                                                          • -

幽子 ♀
悠太 ♂(♀でも可)
雅士 ♂
美樹 ♀

                                                          • -


悠太「幽子さん!そういえばなんだけど」

幽子「水を差すようで悪いけどその幽子って何よ」

悠太「いつまでも幽霊さんって呼ぶのも他人行儀かと思って」

幽子「他人の筈なんだけどなー?寧ろ私人間じゃないしなー?」

悠太「細かいことはいいんです!!!」

幽子「細かくないけど....ハイハイ、何よ?」

悠太「幽霊の幽に!子供の子!!これで幽子さん!!」

幽子「厨二病臭いわね」

悠太「だって、名前教えてくれないんだもの」

幽子「あんたね....」


美樹「兄貴ー、引越し祝いに来てやったよー!」

悠太「美樹!!なんだよ来る時はインターホン押せって」

美樹「いや、インターホンないし、って....キャァァァァァ!!!」

幽子「まぁ、驚くでしょうね....幽霊がここに居たら」

美樹「何!?チョー美人さんじゃない!!!いつの間にこんな彼女できたの!?兄貴の癖に!!」

幽子「あちゃー....同じ人種かー」

美樹「どうも!!!悠太の妹です!美樹です!!よろしくお願いします!!」

幽子「ツッコミ居なかったらこんな大変なのね....あの子きっと苦労性だわ」

美樹「あの!!お名前は?出会いは!?年齢は!?なぜ真っ白な服を!?良ければお姉様とお呼びしても!?」

幽子「なんなのこの子!マスコミレベルで怒涛の如く質問してくるんだけど!?」

悠太「あー、こいつ興味持ったらまっしぐらなんだよ、ゴメンな幽子さん....全く大変な妹を持ったもんだ」

幽子「いや、確実に貴方血を引いてるわよこの子」

美樹「ん?何が?」

幽子「....なんでもないわ....ねぇ、あのツッコミ君は今日は来ないの?」

悠太「ん?来るよ、今日はバイトねぇらしくて美樹来るって言ったら「絶対行くぅぅぅぅぅぅぅぅ」って言ってたから」

幽子「....まぁいいわ、説明するのも面倒臭いからあの子に任せましょう」




雅士「んで、俺が予定より早く無理矢理召喚されたってことか」

悠太「だって幽子さんが鬼の形相で今すぐ呼べって言うから」

幽子「収集がつかないからよ!!!わかる?」

悠太「わっかんねぇ!」

美樹「分かりません!」

雅士「潔いいなお前ら....じゃなくて、美樹ちゃん、この人、なんだと思う?」

美樹「何だと思うって....綺麗なお姉様で、兄貴の彼女で....」

雅士「美樹ちゃん、この際綺麗なお姉様はいいよ、事実だから。でも悠太の彼女ではぜっっったい無い」

美樹「え?」

悠太「え?なんでなんで?」

雅士「お前は黙ってろ悠太。えっと....美樹ちゃんは、幽霊とか平気?」

美樹「幽霊か....(出来れば一息で)夜中幽霊さんが部屋の隅に居たからお友達になりたいって思って幽霊さん追い掛けて、「お友達になろーよ!!」って言ったら「ふざけんな!」って言われて金縛りに合って息が出来なくなって気付いたら病院だったってことはあるよ!」

幽子「それ確実に悪霊の類よ、よく生きてたわね....いや、コイツの妹ですもの....ありうるわね」

雅士「いや呆れてる場合じゃないですよ幽子さん!?」

幽子「あ、そうね、説明してちょうだいツッコミ君」

雅士「なんで俺が....まあいいや、美樹ちゃん、この幽子さん、正真正銘の幽霊だよ」

美樹「へぇ....トイレとかはするんですか!?」

雅士「デジャブ!!!この兄にしてこの妹あり!!」

悠太「な?気になるよな?」

美樹「うん、こんな綺麗な幽霊さんなんだもの、そういう所想像できないって言うか」

幽子「しないわよ?」

雅士「アンタも律儀に答えてんじゃねぇよ!!」

幽子「勘違いされたくないもの」

雅士「もうどうにでもなれええええ!」




美樹「なるほどねー、よく見れば確かに脚もないし本当に幽霊さんなんだね!」

悠太「風呂は入るんだぜ」

美樹「どうやって!?」

雅士「せっかく収集付けたのにお前って奴は....」

幽子「気持ちの問題よ」

雅士「だから別に変な質問に律儀に答えなくていいって!....頭いてえよ」

美樹「そういえば、幽子お姉様は本名なんですか?」

悠太「ワシが付けた」

雅士「ワシが育てたみたいなニュアンスで言うなよ」

幽子「そうねぇ、本名が分かってたらもうとうに成仏してるでしょうね」

悠太「そうなの?」

幽子「そうよ。貴方は分かってなさすぎるから稲川〇二さんの話聞いて勉強しなさいよ」

雅士「そんなんで霊界学べるの!?」

幽子「あら、結構忠実よ?」

悠太「へぇ....じゃあ幽子さんは記憶が無いの?」

幽子「生前のね。記憶が戻って未練もなんにもなくなったら無事成仏よ」

雅士「生前の記憶ねぇのになんで稲川〇二への認識はしっかりしてんだよ!」

幽子「さんを付けなさい。稲〇淳二さん。」

雅士「なんでそんなにリスペクトなんだよ」

美樹「えっと....じゃあ幽子お姉様は兄貴が勝手につけた名前で、地縛霊だから強制的に同居って事?」

雅士「まとめてくれてありがとう美樹ちゃん」

美樹「うーん、幽子お姉様は成仏したいの?」

幽子「成仏出来ればいいなとは思ってるわ。もうほとんど諦めてるけど」

悠太「そりゃあ長年ここに縛られてたらそうなるわな」

雅士「なんでこの兄妹はこんなに適応能力高ぇんだよ!最初の俺がアホみてぇにおもえるわ」

美樹「みんなでお姉様の記憶を取り戻すように頑張ろうよ!ねぇ!」

雅士「んー?あれー?皆ってオレも頭数に入ってる?」

悠太「乗っかった船だ、雅士」

雅士「それはお前が言う台詞じゃねえよ!!!」

幽子「哀れねぇ、ツッコミ君」


雅士「幽霊に哀れまれるとかもうやだよ俺....」

どうしてこうなった

幽霊→住み着いてる地縛霊。悠太を怖がらせて追い出そうとするが....

悠太→大学生。大学から近いという理由でワケあり物件であるアパートに住む。ネジが2〜3本飛んでいる

雅士→悠太の幼馴染。普通の人。

                          • -

幽霊 ♀
悠太 不問
雅士 ♂

                          • -

悠太「ふぁーーー!荷解きも終わったし、あとは家具を揃えるだけかー。だけっつっても先が思いやられるぜ....」

雅士「まあまあ、望んでた新生活じゃん?ゆっくり揃えてって悠々自適に過ごせよ」

悠太「そんな楽なもんかねぇ学生生活....」

雅士「無駄遣いには気をつけろよー?んじゃ、俺はバイトだから退散するわ」

悠太「さんきゅな!」

雅士「困ったらすぐ言えよ?」

悠太「わかった」

雅士「んじゃ」



悠太「ふー、新生活かぁ....」

幽霊「ぅぅ....恨めしや....」

悠太「ん?え?」

幽霊「出ていけ....呪い殺してやる....」

悠太「雅士イイイイイイイイイイイ!!!!」


雅士「んだよ玄関から出て5歩も歩いてないぞ」

悠太「困ったら呼べって言ったじゃん!」

雅士「いや....早すぎるだろうが。んで?なんだ?」

幽霊「私の部屋だ....出ていけ....!!」

雅士「わわわわわわわっ!?幽霊!?無理無理無理無理!!!」

幽霊「ふふふ....怖いだろう?恐ろしいだろう?さぁ早く....」

悠太「な!?雅士!この人めちゃくちゃ美人じゃね!?」

幽霊「は?」

雅士「え?」

悠太「俺こんな美人さんと同居とか....幸せじゃん!!やべぇ薔薇色の生活!!」

雅士「ちょっと待て」

悠太「こんなマンガみてぇな展開あるんだなー!!生きててよかった....神様ありがとう」

幽霊「ちょ」

雅士「マンガみてぇなのはお前の頭だよ!」

悠太「いでっ」

雅士「俺幽霊とか無理なのにぶっ飛んじまっただろうが!!ほら!幽霊さんぽかんってしてるだろ!!!」

幽霊「ほ、ほえ....」

悠太「え?幽霊なの?」

幽霊「あの、ほら、恨めしやって言ったし、足....ほら....」

悠太「ホントだ透けてるー。へーこれが幽霊なんだ」

雅士「感心してる場合か!!!お前、この流れは地縛霊に呪われて死ぬんだぞ!?祟られるぞ!?」

悠太「そうなの?」

雅士「アホなの!?ほら、テレビから出てきたり家入っただけで呪い殺されたり!!!」

悠太「テレビの見すぎじゃねぇの?」

雅士「馬鹿なの!?この幽霊さんの事なんて思ってるの!?」

悠太「んー?ホログラム?」

雅士「なんでこんなアパートの一室に最先端科学がやって来るんだよ!!」

幽霊「....そろそろ喋っていい?」

悠太「どぞどぞ!!!座布団はまだ無いけど!」

幽霊「幽霊だから足疲れないし....ていうか足ないし....」

悠太「あ、ごめんごめん、お茶飲む?」

幽霊「幽霊だから飲食とかいらないし....ていうかもの触れないし」

悠太「すごい本物っぽいね!」

幽霊「本物だよ!!!」

雅士「幽霊に怒られてるってなんなんだよ」

幽霊「こっちだってびっくりよ....アンタ達が初めてよ...私にびっくりしないの」

雅士「いや俺は心臓止まるぐらいビビったし幽霊さんと意思疎通出来てることに未だ驚きを隠せないよ」

悠太「俺霊感あったのかー。幽霊なんて初めて見たけど」

幽霊「いや....その霊感っていうのは全部ガセよ」

悠太「へー?幽霊さんってトイレとか行くの?」

雅士「話聞く気ねぇなお前」

悠太「いやー気になって」

幽霊「アタシに対してセクハラとはいい度胸ね....じゃなくて!!!アンタ達生きてる人間の霊感だの霊視だの、そんなのは嘘っぱちなのよ」

雅士「マジで!?」

幽霊「あんたまでこの状況に慣れてきたのね....まぁいいわ。生きてる人間が私達幽霊を見れるのは、私達次第なのよ。私達が姿を現すか、見られないように隠れてるか。それだけよ。それを『俺霊感あるんだよねー』とか言ってのけるにわかオカルトマニアはいっぺん死ぬといいわ本当に」


雅士「ゆ、幽霊さん、最後はただの愚痴じゃあ....」

幽霊「ゴホン。まぁそういうわけよ。」

悠太「ふーん。で、俺はどうすればいいの?引っ越す気ないよ?幽子さん」

雅士「幽子さん!?」

悠太「呼びにくいもん」

幽霊「本当に呑気ね....アンタ」

雅士「ホントこいつ昔から勉強はできるのにそういうとこアホなんです許してやってくださいこう見えて良い奴なんですほんとに助けてくださいどうか命だけは」

幽霊「いや、殺す気は無いわよ?」

雅士「え?」

幽霊「アタシ悪霊じゃないし。成仏の仕方がわかんなくてこうやってここに居座ってんの」

雅士「そんなゆるい世界なの!?」

悠太「幽子さん」

幽霊「何よ」

雅士「この幽霊さん....フランクすぎて怖く無くなってきた」

悠太「幽子さんさえ良ければこのまま一緒に住もうよ」

雅士「何言ってんだお前」

悠太「だってよく見てみ?超絶美人だぜ?一昨日の合コンの女よりずっとずっと美人だぜ?」

雅士「んーそりゃあたしかに....じゃねえよ!!!なんだよ幽霊と同居って!!!」

幽霊「アタシはいいわよ、最初邪魔で追い出そうと思ったけど、アンタ達面白そうだもの」

悠太「マジで?やったー!」

雅士「アンタ達!?なんで俺も入ってるの!?」

幽霊「コント見てるみたい」

雅士「幽霊にコントって言われたよ....生きていけない....」

幽霊「死んでみる?」

雅士「嫌だよ!」

幽霊「お試し期間とかあるから、いっぺんやってみれば?」

雅士「それただの臨死体験じゃん!!怖いよクーリングオフ使う前にお断りだよ!!」

悠太「Amw〇yみたいだな!」

雅士「それ以上言うな、消されるぞ」

幽霊「アンタ達本当に面白いわね、あーこれから楽しみだわ」

悠太「一緒にお風呂とか....ぐふふ」

雅士「お前本気で言ってんのか」

幽霊「お風呂は覗かないで!!」

雅士「風呂は入るんだな!?もう何が何だかわかんねぇよ!!」

悠太「あ!」

雅士「なんだよ、まだなんかあんのか?」

悠太「雅士、バイト遅刻じゃね?」

雅士「あっ....」

悠太「ドンマイ★」

雅士「なんで....こんなので遅刻しなきゃいけねぇんだよぉぉぉぉぉぉ」

幽霊「うふふ」



おしまい。