逆さまの時計
魔女 ノア→不死の魔女。人間をものとしか見ていない冷酷な魔女。
男 アーノルド→老父。行き倒れていたところを魔女ノアに見つかる
(アーノルド役の方は
死にそうな老父→お爺さん→おじさん→青年と演じていってください。最後の赤子は語り手若しくはノア役の方がしてくれると幸いです)
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魔女ノア ♀
アーノルド ♂
語り手 ♂♀
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これは、恐ろしく氷のように冷酷な魔女と、とある男の物語。
タイトルコール「逆さまの時計」
深い深い森の奥に、人間嫌いで有名な不死の魔女が住んでいました。彼女は冷酷で恐ろしい程に美しいと、村人はいいます。
そんな魔女の家の近くに、1人の老父が倒れていました
アーノルド「....」
ノア「あらやだ人間が落ちてるじゃないか....贄のつもりかい?にしては美味しくなさそうだねぇ」
アーノルド「う、うう」
ノア「汚らしい....老いぼれてるじゃないか」
アーノルド「....」
ノア「....みすぼらしい....どうせ寄越すのならもう少し若い男が良かったわねぇ」
アーノルド「あぁ、うう....」
ノア「まあいい....魔女の戯れだ、お前に第二の人生をやろう。しかと噛み締めた後....わらわの生贄になるがいい....ッフッフッフ。あっははは」
そうして、魔女の気まぐれによって老父は連れ去られたのです。
場所は変わって、魔女の家。老父は今にも死んでしまいそうな様子でベッドで寝ています。そんな老父に魔女は呪いを掛けました。
ノア「命の輪廻....流れゆく年月...宇宙の真理....我は抗おう!死にゆく者に生を与え給え!!」
アーノルド「ぐふぉっ....かはっ」
ノア「お前に若返りの呪いを掛けた。しっかりと若返ってさっさと贄になるんだね!」
アーノルド「わかがえり、ですか」
ノア「もう喋れるようになったのかい。若返りと言っても、今すぐ青年になるって訳じゃないんだから大人しくしときな」
魔女ノアの掛けた呪いは時の流れを逆にする、そんな呪いでした。
今の老父は一言一言喋るのが精一杯でした。
優しいのか厳しいのか布団を投げつけたノアは部屋を出ていきました。
アーノルド「2回目の人生か....あはは....そうかい....」
年月は流れ、老父はアーノルドと言う名前を名乗りました。さらには立って動けるようになったのです。
ノア「アーノルドと言うのかい。殊更興味もないがねぇ。」
アーノルド「ははは、そうでしょうなぁ。魔女様は何千年も生きておられる。私の名前なんぞ興味はないでしょうなぁ、あっはっは」
ノア「何を笑ってるんだい、わらわの贄であることを忘れたか?」
アーノルド「魔女様が望む若い男になってから、贄になりますよ、安心してください。」
ノア「ふん。奇妙な男だ。普通はわらわの前だと恐れおののくというのに」
アーノルド「ハッハッハ....それもそうでしょうなぁ。ですがもうなかった命でございますので、この人生は魔女様に捧げようかと」
ノア「ふん。戯れ言を」
アーノルド「ええ、爺の戯言でございます。
」
それからまた長い長い月日が流れ、アーノルドはシワが少なくなり、魔女のお茶汲みなどもこなせる様になりました。魔女の好みであるカモミールティーを淹れ、魔女の部屋へ向かい、ノックをします。
が、彼女が出迎えてきません。鍵が空いているのでそのまま部屋に入ります。
すると、魔女は鏡の前で立ち尽くしていました。
アーノルド「魔女様?」
ノア「何故私は死ねないのだろうな」
アーノルド「....何をお考えで?」
ノア「お前達は本来老け、時が来れば死ぬ」
アーノルド「そうですなぁ」
ノア「わらわは不死だ、不老なのだ....それ故に考えることもある」
アーノルド「....」
ノア「沢山の生と死を見てきた。だがわらわはその生と死から逸脱した存在なのだ。故に....人間が恐れるのは当たり前なのだがな」
アーノルド「ははは....そうですか」
ノア「わらわは最早死んでいて、人間からは醜く見えているのであろうな」
アーノルド「そんなことはありませんよ」
アーノルドは優しくノアの髪をつまみ、美しく結いました。
ノア「なんの真似だ?アーノルド」
アーノルド「申し訳ありません、こちらの方が似合うかと思いまして」
ノア「余計な事を....」
ノアはアーノルドの手を祓い、部屋を出ていきました。しかし、結われた髪は解かれることはありませんでした。
そして、お茶の時間になり、アーノルドはカモミールティーを差し出します。
アーノルド「少し冷めておりますが....」
ノア「このままで結構だ。....してアーノルド」
アーノルド「なんでしょう?」
ノア「これは...何のつもりだったのだ」
ノアは髪を指差します。
アーノルド「不死の魔女と恐れられているとしても....あなたは美しい。」
ノア「はぁ」
アーノルド「顔をしっかり出せばもっと綺麗になるかと思いまして....いやはやその....やはり迷惑でしたかな?」
ノア「...いや。聞いて呆れるほどの理由ではあるがな。お前がそう言うなら毎日わらわの髪を結え。」
アーノルド「かしこまりました、魔女様」
ノア「魔女ではない」
アーノルド「はい?」
ノア「ノアだ。わらわにはノアという名前がある。」
アーノルド「....かしこまりました、ノア様」
魔女ノアの名前を呼ぶことを許されたアーノルド。少し嬉しそうに笑って名前を呼びます。
この時の魔女ノアも人間に恐れられた姿ではな無く、少し柔和な表情をする様になりました。
また月日は流れ、アーノルドはシワの一本もない精悍な若い青年になりました。
魔女ノアはアーノルドを探しますがどこの部屋にも居ないのです。
ノア「アーノルド?アーノルドはどこだ?」
アーノルド「ノア様ーー!!」
声と共に届いたのは小さな花々で彩られた花冠でした。
ノア「いないかと思って探したじゃないか、びっくりさせないでおくれよ」
アーノルド「へへへ、庭に綺麗な花が咲いてたからノア様に似合うのを編んでもって来た!」
ノア「こんな綺麗なもの....わらわにはもったいない」
アーノルド「ノア様は世界一きれいなんだから!そんなこと言わないの!」
アーノルドのその手は自然と魔女ノアの手に絡めます。ノアも手を払うことはありません。アーノルドに手を引かれ、ノアも一緒に庭に行きます。
ノア「こんなに綺麗な花が咲いてたのだな...」
アーノルド「そうだよ!ノア様ったら自室からなかなか出てこないからさ!」
ノア「わらわは影の世界で生きるべきなんだ。だから」
アーノルド「だから!そんなジメジメーっとしたとこてジメジメしなくていいの!」
ノア「そんな生意気な口聞いてるようじゃ贄にしちまうよ?」
アーノルド「ふふ、知ってるよ。ノア様、オレのこと生贄にするつもりないだろ」
ノア「!?」
アーノルド「勿論オレは生贄になるつもりだったけど、ノア様、ずっとそばに置いてくれるつもりだろ。」
ノア「....情けない....」
アーノルド「なにが?」
ノア「たかが人間の男に心の内を暴かれるとは、魔女として情けない。わらわは魔女し失格だな」
アーノルド「いいじゃん、魔女失格でも。それでもオレは変わらずここにいるよ、ノア様」
ノア「ははは、アーノルド、貴様は冗談がうまい」
アーノルド「冗談じゃないってば!」
ノア「ほう?」
アーノルド「....ずっと、ずっと一緒にいるよ。」
ノア「ずっと?」
アーノルド「そう、ずっと。」
談笑する魔女ノアと青年アーノルド。
いつの間にか二人の間には愛情が育まれていました。勿論魔女ノアはアーノルドをもう贄として見ていません。ですがノアは葛藤しているようでした。
ノア「たかが人間....だがあやつの人生を狂わせたのはわらわだ....」
自分でかけたものは魔法ではなく呪い。
生命が逆再生される呪い。もちろん赤子まで。赤子として生命を終えるのです。
ノア「一度かけた呪いは....二度と解けない....情が湧く前に贄にしてやればよかった....」
そうつぶやいたノアの言葉は闇夜に消えていきました。
また長い月日は流れ....
アーノルドは小さな赤子になったのです。
ノア「お前はずっと、と言ったな....あれは嘘なのか....答えておくれよ....」
アーノルド「あー....だー....うぅー」
ノア「遂には言葉まで忘れてしまったか、アーノルド....お前は本当に情けないな....」
そう嘯く(うそぶく)ノアの目にはたくさんの涙が溜まっていました。
小さなアーノルドの頬にぽたぽたと、ノアの涙が零れます。
ノア「こんなに小さくなっちまって...最期はせめて....腕の中でお眠り....アーノルド坊や」
出来ることならもう一度....その言葉が紡がれることはありません。
ノアは未来永劫、アーノルドという奇怪な男性を忘れることはありませんでした。
これは恐ろしく氷のように冷酷な魔女と、その心を溶かしたある男のお話です。
アーノルド「ずっと、一緒だから。泣かないで」
END
こちらは私が1から書き上げたものではなく
ぱるこ様(@baalbeel11)の魔女の漫画から引用して書かせていただきました。
素敵な世界観故に傷付けないように書いたつもりです。
ぱるこ様、本当にありがとうございました。